腐りゆき消える通貨 ゲゼル通貨はデフレ社会を変えうるか? その1 ヴェルグルの奇跡

もしかして世界を変えるかもしれない面白いネタを仕入れたので紹介します。
それはなにかというと、デフレを克服し人々をお金の心配事から解放するかもしれない話です。

モノが売れないデフレ時代。科学技術は進歩しても生活は豊かになるどころか貧しくなっています。
世間では生活保護費の削除、ブラック企業の台頭など暗い話が目立ちます。
どうしてこのようなことが起きているのか?

不況は日本だけではなく、2008年に起きたリーマン・ショック後、世界同時不況となっています。
世界経済の中心であるアメリカ経済がコケたせいで、関連して世界の国々の経済もコケてしまったわけです。
ではどうしてコケてしまったのかというと、資本主義と通貨の仕組みに重大な問題があったからです。

通貨というのは、「金本位制」によってその価値が保証されています。
金は希少で人工的に創りだすことが困難であるため、その価値が不変とされています。
正に「金(ゴールド)」なのです。

で、もともと金が交換に使われていたのですが、持ち歩くには不便なので便宜的に紙幣というものを発行することになります。これを兌換(だかん)紙幣と言います。
つまり、紙幣自体はなんの価値もない代替物だけれど、政府主導のもと、その価値は所有している金によって保証されていますよ、ということなのです。

▼お金ができる仕組み。銀行の詐欺システム money as debt

それがいつしか、お金というと紙幣とか硬貨を指すようになりイメージとして定着します。
問題はお金の3つの機能にあります。

1.交換性
2.増殖性
3.貯蓄性

特に問題なのが「増殖性」です。
そもそも金本位制によって担保されている金の量は変わらないのに、市場に出回るお金の方が増えたらどうなるでしょうか?
本物よりも偽物が増え続けると、相対的に本物の価値が下がるのです。
しかし、価値は金もお金も保証されるというダブルスタンダードであるため、さらに相対的にその価値の目減りした分を人々の労働で穴埋めしなければならないわけです。これがおおまかなデフレの原因です。

お金の増殖性というとピンとこないかもしれませんが、お金には利子が付くと考えると分かりやすいと思います。借金にも利子が付くし、貯蓄したお金にも利子が付きます。マイナスでもプラスでも勝手に殖えて行くのです。
利子が付くことで、金本位制のバランスが崩れてしまいます。

大体、自然界で採れた金(ゴールド)にマイナスというものはありません。なので、借金とか、利子というのは矛盾しているわけです。世界でどれだけ架空のマネーが出回っているかは想像つきませんが、おそらくは実体に対して数倍は流通しているはずです。
リーマン・ショックというのはウソのお金が出回り過ぎて、ついにははじけ飛んでしまったバブルだということです。

そして、資本主義は自己責任の自由競争市場なので、元金を持っていればいるほど有利にゲームを展開することができ、一度勝者が決定すると、そう簡単にはひっくり返らない二極化を生み出しやすくなります。

労働者と資本家による搾取
労働者と資本家による搾取

これに対して「資本主義っておかしくないか?」と考えた人達がいます。
共産圏の人達です。富はみんなのものであり、平等に分配されなければならない、という考えの元、一度政府に集められた富は、国民に再分配される仕組みです。国民総生活保護です。

しかし、共産主義は資本主義よりも先に停滞してしまいました。
なぜなのでしょうか? 共産主義もまた資本主義以上に問題があったからです。
例えば、行政の指導のもと人々は労働を割り当てられましたが、この割り当てというのは個々人の能力に沿うものではありませんでした。また、縦割りの行政指導は小回りが効かず、一度走りだしたら軌道変更が用意ではなかったのです。

トップである行政指導が間違っていたことで、ソ連や北朝鮮では農業に失敗し、大量の飢餓民を出すこともありました。また個人の適性を無視した労働では、優秀な人材が育たず工業の遅れも目立ち国際競争力を欠くことになりました。さらに指導者に独裁者を産み出しやすく政府の柔軟性を欠き、問題を悪化させやすかったのです。
現在、資本主義が主流なのは、他にもっとマシな手がない、というだけで肯定されているわけではないのです。

では、中間の方法はないのか? と考えた人がいます。
ある程度の競争原理と自由市場を維持しつつ経済の循環性を促し、貧富の二極構造を生まれにくくする仕組みを考えた人がいました。

ドイツ人の経済学者であるシルビオ・ゲゼル(Silvio Gesell 1862~1930)です。

▼シルビオ・ゲゼル Wikipedia

ゲゼルはゲゼル理論と呼ばれる独特の考えを持っていました。

『お金は老化しなければならない』
『お金は経済活動の最後のところでは、再び消え去るようにしなければならない』

金本位制を考えれば当然ですよね。

このゲゼル理論、果たして効果はあったのでしょうか?

「ヴェルグルの奇跡」という実話を紹介します。
時は第一次世界大戦後に勃発した世界大恐慌のまっただ中。1932年から1933年のたった一年ちょっとの出来事です。

オーストリアのチロル地方のヴェルグル(Woergl)という町では、当時人口4300人しかいなかったうちの30%が失業していました。
景気対策に頭を悩ませていた当時の町長、ミヒャエル・ウンターグッゲンベルガー(Michael Unterguggenberger)は不景気の原因をこのように考えました。

「不景気はお金が貯めこまれ循環が滞っているため起きている」

逆に言えば、お金が循環すれば不景気は回復すると考えたわけです。
ではどうやってお金を循環させるのか? ただお金を使いましょうと連呼しただけでは人々の冷えた心に火は点きません。

そこで、町長が考えたのがゲゼル理論を取り入れた地域通貨の発行です。
日本にも地域通貨ブームがありましたが、この地域通貨には他にはない大きな特徴がありました。

この通貨は月初めにその額面の1%の印紙を貼らないと使えなかったのです。
つまり、毎月その額面の価値の1%を失って行くので、使わないと印紙代だけ損することになります。
手元にずっと持っていても損するため、誰もができるだけ早くこのお金を使おうとしました。

この地域通貨には「労働証明書」と書かれており、その裏面にはこのように書いてありました。

「諸君、貯め込まれて循環しない貨幣は、世界を大きな危機、そして人類を貧困に陥れた。労働すれば、それに見合う価値が与えられなければならない。お金を、一部の者の独占物にしてはならない。この目的のために、ヴェルグルの『労働証明書』は作られた。貧困を救い、仕事とパンを与えよ」

労働証明書
労働証明書

非常に速い勢いで町の取引で使われるようになり、町の税収も増えることになります。
この「老化するお金」が消費を促進することになり、経済が活性化することになったのです。
これがヴェルグルの奇跡です。

具体的には、ヴェルグルで発行された地域通貨はこのように使われました。
1500人を雇用した公共事業の支払いに地域通貨(労働証明書)は使われ、自国の通貨であるシリングと同価値とされました。
公共事業は、道路、橋の建設、スキーのジャンプ台など観光地開発が目的でした。
町の職員の給料の半分も、地域通貨が支払ったそうです。

日本でも土建屋に公共事業を発注すると、まわりまわって末端の庶民も潤う、という考えがありますが効果が出るまで時間が掛かり、さらに無駄な公共事業を続けなければならず、このお金は国債で賄うという悪循環が問題視されていましたが、ヴェルグルではたった4ヶ月で10万シリング分の公共事業を実施し、税の滞納は消え、税収は以前の8倍になり、30%を超えていた失業率は低下し、ほぼ完全雇用を達成したと言われています。

このような驚異的な経済好転は類を見ません。
ヴェルグルの奇跡は、内外で評判になり、多くの経済学者が取材に訪れたそうです。米国の経済学者アーヴィング・フィッシャーもそうした中の一人でした。

しかし、疑問が残りますよね。ヴェルグルの奇跡はどうなったのか?
最初に述べたように、わずか1932年から1933年のたった一年ちょっとの出来事だったのです。
理由は、オーストリア政府がヴェルグルの地域通貨を違法として認めなかったためです。
政府は貨幣の発行権は国の独占的な権利であるとし、町長を国家反逆罪で告発しました。
裁判では、国の主張が認められ、開始後わずか1年ほどで地域通貨は禁止され回収されてしまいました。
ヴェルグルの失業率はまた30%近い高率に戻ったということです。

もっと詳しく知りたい方は、NHK BSで放映された「エンデの遺言」という動画が上がっているのでご覧ください。ヴェルグルの奇跡は動画の2番目です。

▼エンデの遺言 1/6

▼エンデの遺言 2/6

▼エンデの遺言 3/6

▼エンデの遺言 4/6

▼エンデの遺言 5/6

▼エンデの遺言 6/6

続く。

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