日本はTPPに参加すべきか? 資本主義の亡霊再び 前編

現在日本はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加するか否かでモメていますよね。
東日本大震災の影響で参加表明は先送りされていたのですが、いよいよ参加をするか否かの返答を迫られています。

TPPについては様々なことが言われています。
代表的なものに「参加をすると農家がダメになる」とか「経済が活性化し経済成長が加速する」、「関税自主権と治外法権を失う」など、与野党でも議員レベルで参加するか否かについては意見が分かれています。

で、結局のところTPPとはなにか? どんなメリットがあって、どんなデメリットがあるのか?

まずTPPなのですが、環太平洋戦略的経済連携協定と長ったらしい名前が付いていますが、要するに加盟国間で、「関税撤廃をしましょう」というものです。
関税というのは旅行をすると取られるお馴染みの税金ですよね。
関税は国力とその品目の生産性に応じて、関税率が決まっています。

例えば、A国とB国があるとします。A国は農業大国でB国は資源国だとします。
農業大国のA国では農業は盛んですが資源に乏しいため工業が弱いとします。
資源大国のB国では資源は豊富ですが土地が険しいため農業が弱いとします。
A国の安くて美味しい農作物がB国に輸出されると、B国の零細農家は安くて美味しい農作物には太刀打ちできなくなります。

B国では自国の農業を守るために、A国からの農作物輸入には関税を設けて、自国と他国との競争にバランスをとっているわけです。
税金は無いほうがいいと思いがちですが、関税についてはその国の得意、不得意分野から生じる貿易格差を緩和する働きがあります。

もし関税が無かったり、低過ぎたりすると、外国資本が押し寄せてすぐに実効支配されてしまいます。
日本の山河などの水源を買収される、日本の政治家への献金が許される、なんてことになると、どんどん内部から日本が外国化していくことになります。
多くの国ではその国の主要な産業には外国資本が入り過ぎないようなリミットが設けられています。

で、TPPというのはそのリミットを無くしてしまいましょう、という取り決めなのです。輸入輸出はフリーで行きましょう、というわけです。
そうすればお互いの国の得意、不得意分野をよりカバーし合えますよね、というのがメリットです。
TPPについて考えるには、比較生産費説や裁定取引、一物一価の法則を知っておくとより理解が深まります。

簡単に説明します。
まず国には得意分野と不得意分野というものがあります。
ある国の生産分野がある国よりも優っているとき、比較優位であるといいます。例えば、フランスではワイン、オーストラリアでは牛肉、中国では労働賃金の安さなどが得意分野なので、比較優位となります。

比較優位は自由貿易(FTA)に関して生まれた考え方で、経済学者デヴィッド・リカードが提唱したものです。

要するに自分の国の得意分野を活かして生産した製品を海外に輸出し、それによって稼いだお金を使い、自国の不得意分野をカバーすることができれば、国際分業が可能になるよという理論で、比較生産費説やリカードモデルとも言われています。

例えば、日本では人件費が高いので、中国で工場を作り、現地の賃金の安い労働者を使い製品を作っています。
中国は技術獲得と雇用枠の拡大、そして外貨の獲得ができます。
日本では安くて良い製品を生産し海外に輸出することで国際競争力を高めているわけです。お互いの長所と短所を補い合っているわけですね。

しかし、問題が生じます。日本の下請け国家だった中国が日本を抜いて世界で第二位の経済大国へと成長してしまったことです。
中国内でも格差が広がり、労働賃金が上昇しているため、インドやタイ、ベトナム、マレーシアといった海外へと生産拠点が移りつつあります。
これは何を意味するのでしょうか?

例えば、ある場所では豊富に存在している安い商品が、ある場所では極めて貴重であり、高値で取引されていたとします。
その事実を知っていれば、安いところで買って、高いところに持って行って売るだけで、利益を得ることが可能となりますよね。要するに転売行為です。

例えば、日本などの水資源が豊富な地域では水は希少性が乏しいため、極めて安価です。

しかし、この水を砂漠のような水の希少性が高い地域に運んでいけば、高値で売ることができます。リゾート価格というやつです。

金融の世界でも同様な取引があり、金利の低いところで金を借り、金利の高いところで貸し出せば、元手が少なくても多額の利益を手にすることが出来るというレバレッジ(テコの原理)が使えます。

これを裁定取引と呼びます。価格差を利用して利鞘を稼ぐ方法です。
このような取引が行われた結果、価格の低い市場では、需要が増大し価格が上がり、価格の高い市場では供給増大して価格が下がります。
次第に価格差や金利差が収斂(一つに絞られていくこと)していくことになります。

価格が収斂(しゅうれん)していくこの過程を一物一価の法則といいます。

もっと簡単に言うと、商売の基本は安く仕入れて高く売るなのですが、これを繰り返していけば、その商品の希少価値は平均化されて価値が下がるよ。

そして、みんな価格について学習するので、もっとも低い価格を提示した所から買うようになりますよ、ということです。これが一物一価の法則です。
考えてみれば当たり前ですよね。

中国だってバカではないので、徐々に日本の技術を盗み、ノウハウを蓄積し、独自に独立生産をするようになります。
同じ製品でも中国が独自に直接作っている製品と日本の外資が入り間接的に作っている製品とを比較すると、日本という外資のマージンが含まれている製品は価格が割高になります。

同じ製品であれば、消費者は価格が安い方を選ぶものです。
市場が拡張し、接続されて行くと、一物一価の法則が働くということです。
分かりやすい例でいうと、GoogleAmazon化があります。

Amazonと言えば楽天市場と並ぶ一大ショッピングサイトです。
楽天市場はショッピングモールですが、アマゾンはショッピングサイトです。
そのため、アマゾンではほぼ全ての商品が送料無料となっています。
楽天はモールなので送料を無料にするかどうかは各ショップオーナーに委ねられています。

アマゾンはマーケットプレイスでなけば、決済窓口もひとつで、送料もまとめて無料なのです。20円のネジひとつを買っても送料が無料です。
このような価格差が生じると、消費者は同じ商品であれば安いところで買うようになります。今までネットショップではネックだった送料が無料になると、リアルショップとの差はますます縮まることになります。

アマゾンの売上が上昇すればするほど、地方の零細商店が閉店するという現象が起きています。

TPPではこれが世界規模で起きます。スーパーで今まで外国産と表記されていた野菜や魚類、肉類を消費者が直接その国のネットスーパーから買うことができるようになります。

物流のスピードとコストさえ解決すれば、コストコみたいな大型店もいらなくなる可能性もあります。

スーパーというのは結局のところ、各メーカーから商品を買い付けて、転売をするという裁定取引を行なっているようなものなので、TPPによって市場が拡張し接続されていくと、最終的にはメーカー直販が一番安くなり、中間マージンを取っている問屋、卸、小売は不要になってきます。

すなわち、そこに従事する従業員も不要になるということです。
田舎の街に巨大なイオンのモールができると、旧くからある商店街はサビつき地域崩壊が起こります。こういったことが起きることが予想されます。
このことを踏まえると、日本がTPPに参加することによって恩恵を受ける会社とそうでない会社が出てきます。

田舎の街に巨大なイオンショッピングモールができて喜ぶ人と、苦しむ人がいるということです。TPPの意見が割れる理由はここにあります。
忘れてはならない一番のポイントは一物一価の法則です。
最も安い価格を提示した売り手に買い手は殺到する、ということです。

つまり、日本が一番になれる分野が少ないと、根こそぎ外国に持っていかれてしまうということです。

日本は人件費が高いので、生産のコストパフォーマンスが非常に悪いことが知られています。

よって製品が高くても買ってもらえるような魅力的なものづくりをするか、特許による知的財産を増やしていくといったトリッキーな方法で生き残りを掛けることになるのですが、昨今のゆとり教育のせいで目も当てられない状況になっています。

話は続きます。

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