崩壊するクーポンビジネス

以前グルーポン系ビジネスがすごい、みたいなことを紹介したが、それからどうなったのだろうか?

実はクーポン系ビジネスは瞬く間に類似サービスの乱立が目立ち崩壊寸前なのだ。

もう一度クーポンビジネスについて簡単に説明しよう。

クーポンビジネスが流行った理由は、驚くほどお得だったからだ。

例えば、最初のインターネットバブルでの収益成長の仕組みが1000円のものを500円で販売することだったとすれば、クーポンビジネスの成長は、誰かに1000円を500円で売らせておいて、権利の代償として250円を徴収することで成立している。

一般的なクーポンの構造はこんな感じだ。

・通常価格の50%がディスカウントして顧客に提供される
・価格の25%が店舗に入る
・価格の25%がクーポン提供会社に入る

これで成立するようなビジネスならまぁいい。

しかし、通常の半額以下で提供し、なおかつ売上の25%しか入らないわけだから、これで成立するようなビジネスはクーポン系のサービスぐらいだろう。生き残るのはクーポンサイトだけになる。

これはなんだか情報系のアフィリエイトサービスに似ている。

クーポンサービスを利用して販促をしているのは飲食店がダントツで、次いで宿泊や旅行業だ。

利用者にとってクーポンはあきれるほどお得だ。

生涯最悪の不況下で暮らしていると、そんな割引きがますます魅力的に感じてくる。

例えば、コーヒーショップでクーポンを使い、250円で1000円分の食べ物が手に入ったとする。

コーヒーショップで1000円というのはなかなかの出費だ。

それが250円で1000円分の食べ物と交換できるのだから驚くほどお得だ。

利用者にとってはすばらしくお得だが、しかし店にとっては維持不可能だろう。

クーポンサイトにはこういったクーポンが日替わりでたくさんある。

殆どのレストランでは、料理の原価は売値の25~30%だと言われている。

維持可能な割引は15~30%だ。断じて75%ではない。

おどろくべきことにクーポンビジネスは、経済的に維持不可能な価値提案に基づいて動いている。

250円で1000円というのは、店にとってはタダ同然というわけだ。

実際のパーセンテージはさまざまだろうが、概算はこんなところだ。

価格を半分にして、残りまた半分を誰かに渡して儲けを出せるビジネスなど存在しない。これは三者によるゼロサムゲームだ。

金の行き先は顧客、店舗、クーポン提供者のいずれか。

もし店舗がちょっとでも儲けを増やそうと思えば、その金は、クーポン提供者の取り分を減らすか(マージンが減る)、顧客への割引率を下げるか(クーポンの魅力が減る)のどちらかによって絞り出すことになる。

するとライバルに客が流れるので一度クーポンに依存すると、なかなか引き下がれないことになる。

しかし、このクーポンで儲からなくても心配ありませんよ、と店は言われる。

すべては顧客獲得のため。新規顧客が増えれば将来たくさん稼げますよ、と。

これには少しばかり問題がある。

問題は以下の通りだ。

店にやってくる客の多くは既存の客だ。

クーポンを使っても収益を75%減らすだけだ。

例えば、40ドル分の料理を20ドルで売るとしよう。売るのは2000食だ。

クーポンを還元する客の25%は既存の顧客なので単に損するだけだ(25%というのは、実際に私が店主たちから聞いたよりも少ない数字だ。
この値が大きくなるほど、ビジネス状況は悪化する。ある店主はGroupon 利用者の90%が既存顧客だったと言っていた)。

さらには、顧客の店の価値に対する期待度がリセットされるという、長期的影響を与える可能性もある。

客の多くは、店の主要対象地域外からやってくる。

地元のレストランにとって、通常の市場地域は8キロ圏内だ。最近の地理別市場セグメントをもってしても、クーポン業者はそこまで狭いターゲティングはしない。

もっと広い地域を対象にした方が効率が良いからだ。

もし誰かが40キロも運転してあなたの店に来るとすれば、恐らくそれは来てほしい客ではない。

みんなが1時間かけて出かけて正価を払う、というレストランは存在するが、そんなレストランはクーポンを出す必要がないわけだ。

クーポン業者は、店主にクーポン購入者の連絡先情報を教えない。

個々の客を捕まえてリピートされるかどうかは店次第だ。

それをやる方法は間違いなく存在するので、クーポンを出す時は必ずやるべきだ。

顧客に店のTwitterやFacebookのアカウントをフォローするよう薦める。

メールアドレスを聞くといったフォローをしなければならない。

また客がいつやってくるかを店はコントロールできない。

ある店主は、売上一ヶ月分のクーポンをGrouponプロモーションで販売したと言っていた。

別の店では長い行列が出来たために通常のサービスを維持できなかった。

そんな環境の下で、誇れる商品を売ることができるだろうか?

これを経済的に埋め合わせているのが、クーポンを買っておいて引換えするのを忘れたことによる「うっかり」だ。

交換されなかったクーポンは店の収益だ。

しかし、それはあまり期待できるものではない。

そのためクーポンサイトを利用した店舗の42%が、二度と使いたくないと回答しているそうだ。

クーポンサイトを使った集客をすると、店側がサービスを維持できず、まず割引ありきの安っぽい客が集まるようになり、ブランド力の低下、ロイヤリティの低下につながるからだ。

しかしながら、クーポンサイトはリアルビジネスをする人にとって、久々の大型の集客手段であることは確かだ。

集客のために広告を出すには最初に広告費が掛かる。

その広告費は客が来ても来なくても先に払わなければならない。

だがクーポンサイトは最初に広告費は掛からない。

客が来たらクーポンと交換するという約束はあるものの、その都度でいいからだ。

だから、売上が25%とROI(投資対利益)が低くても無駄に広告費を打つよりはいくらかマシなのだ。

問題は効果的な広告媒体が少なくなっていることでもある。

だから、いくらかマシなクーポンビジネスに頼らざるをえないと言える。

成熟してしまった市場では、よほどの真新しものがない限りは、消費者を刺激し財布の紐を緩めるキッカケとなりにくいのだ。

またライバルが市場内でクーポンサービスを利用すると強力な差別化となり脅威となる。実際には諸刃の剣なのだが、ライバルに差を付けられないために自分も導入するしかなくなる。

とはいえROIが25%と低いので、「偽価格」を作らざるを得ない。

1000円の商品が250円となってしまうのなら、最初から定価を2000円にかさ増しすればいいわけだ。単純に500円の収入になる。

今クーポンサービスを利用する業者が増えているとともに、偽価格が横行しているという。

客がいくらで買うかは自由なように、店がいくらで売るかは自由なのだ。

するといつしかクーポン利用者の間には「正価とはなにか?」という疑問が湧いてくる。

クーポンでこんなに安くなるのなら、原価や仕入れはいくらなのだろうか?という当然の疑問が湧き上がるはずだ。

これは本当に適性価格なのだろうか? と疑われることになる。

これで経済が回っているのなら、そもそも原価なんて安いのだろう、いままでは騙されていたのだろう、と思う人が増えて、ますます正価では売れなくなってしまい、クーポンビジネスは悪魔のサービスだと憎まれながらも利用者を増やし続けることになる。

ではどうすればクーポンビジネスとうまく付き合えるのだろうか?

もっとも単純な解決方法は、クーポンをオフピーク時間にのみ使えるよう利用制限をかけることだ。

もちろん制限をかけ過ぎると使えない非魅力的なクーポンということになって利用者への訴求力は低下するが、本業に差し支えないのない範囲で、なんらかの制限をかけつつ、魅力を維持することができればクーポンビジネスはどんどん活用すべきだろう。

長岡式で考えると、このような経済体系で最強なのは、クーポンをクーポンで処理する方法だ。

これは手形に似ている。手形というのは裏書というものがあって、債権を回すことができる。

裏書をすることで、債権を次点に回すことができる仕組みだ。

よく手形の不渡りという言葉を聞くと思うけれど、あれは回した先の会社が残高不足で支払い不能に陥ったことを意味する。

手形にたくさんの裏書があると嫌われるのは、手形が回された回数を意味するからだ。

それはすなわち手形が現金化する率が低くなることを意味する。

幸運なのは手形と違ってクーポンは、還元する店舗が閉店すれば法的に無効になる可能性が高いことだろう。

結局、クーポンというのは実体のない割引なのだから、クーポンに対してクーポンを裏書してしまえば自分がその債務を負うリスクは小さくなるんだよね。

結果的に大量のクーポンがインフレすることになるが、そこは利用制限でかわせばいい。

同業者でクーポンを裏書すると必ず破綻する(自分のとこにもくる)ので、異業種に回すのがポイントになるだろう。

当然、還元しきれないクーポンを安く買い上げるようなクーポンビジネスも立ち上がるだろう。

クーポンビジネスは次の形態に進化する時期に来ている。

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